NPO法人幼年教育・子育て支援推進機構

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食育シンポジウムレポート

第5回 食育シンポジウムレポート

 平成23年2月26日(土)、東京都中央区の浜離宮朝日ホール・小ホールにおいて、第5回食育シンポジウムが開催されました。当日は、寒さにもかかわらず、全国から保育者・栄養士をはじめ、子どもの食育にかかわるたくさんの方々が参加してくださいました。
 第5回食育コンテストの表彰式に続き、スライドを使った入賞園の事例発表と咀嚼研究の第一人者である齋藤滋先生のご講演がおこなわれました。

 


 

講評

厚生労働大臣賞
みんなでつながる食育の輪 ~継続の大切さ~(山口市立あじす保育園)

厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課 清野富久江 様

 

 今回初めて厚生労働大臣賞を出させていただきました。評価した点は2点ございます。1点目は、子どもの育ちを大切にして、発達の段階に応じた食育にかんする取り組みが、クラス担任と給食担当者とで目標・計画を共有化して進められていたことです。

 2点目は、併設の子育て支援センターを通じて、地域の子育て家庭へも展開しており、さらに、行政組織、あるいはボランティア組織といった関係組織とも連携した取り組みをおこなっており、地域とのつながりを非常に大切にしているところです。

 本日お集まりのみなさま方も、今後それぞれの施設での創意工夫で子どもたちが生活とあそびのなかで食にかかわる体験ができ、食べることを楽しむ子どもに成長していくように家庭や地域との連携を図りながら食育の取り組みを推進されることを期待しております。

 


 

全体講評

日本大学短期大学部食物栄養学科教授・NPO法人こどもの森理事長・管理栄養士

吉田隆子 先生

 

 本日はたくさんのみなさまのご参加をいただきましてありがとうございました。受賞者のみなさま、本当におめでとうございます。この食育コンテストは、幼児教育にかかわるみなさまのご熱意により、第5回目を迎えることができました。平成17年の食育基本法のおかげで、食育の認知は上がってきております。食育という言葉がいたるところで聞かれるようになり、食育の実践活動もクッキング保育や栽培の実践をはじめといたしまして、活動が発達段階に合わせたものになってきております。

 

 さらに、地域のネットワークつくりや地域振興にまで広がりをみせてもおります。特に今回の応募作品は、どの作品もとても読み応えがありまして、じっくりと読ませていただきました。今回のコンテストに応募いただきました作品の多くが、園の取り組みに継続力をもってきていること、活動に深まりがでてきたこと、また、園独自でがんばるだけでなく地域との絆が深まってきたことを感じております。
 今回、賞に入られました園児7人の山間部の小さな園のように、日々の生活が食育そのものになってきていることも特徴的なことだと感じました。食べるということは生きるということの基本です。特に幼児期は子どもたちが健やかに育ち、生涯にわたって健康に過ごすための基礎となるこころと体をはぐくむ重要な時期です。そのためには、日々の生活の営みのなかで、子どもの発達段階に応じた食とのかかわりを積み重ねていくことがとても大切なことだと思います。まさに、これが幼児期の食育です。そのためには、子どもたちの健やかな成長を願う幼児教育にかかわる私たちが、情熱をもち、食育からの環境をつくりあげていくことです。このことが将来を担う子どもたちの生きる力としてのたくましさを育てていくものだとしたら、食育を実践していく者としての喜びです。
 また、回を重ねるごとに、応募作品には、子どもたちへのかかわりや子どもたちからの応答が記されてきております。日々子どもと接していながらも、子どもをわかったつもりになっているだけで、意外と理解していないことが多いかもしれません。それが、食育という実践のなかで、子どもと向き合い対話をする機会を私たちに与えてくれたことによって、真の子どもに出会う時間にもなっています。子どもとともにその時間を過ごそうとする私たちの気持ちが子どもたちに伝わり、子どもにとっても大人にとっても意味のある時間として展開していっております。そのなかから発せられる子どもたちの素直な疑問、感動、驚きの言葉は、活動をともにする私たちに、ドラマティックな感動を与えてもくれております。このことは子どもたちの健やかな成長を願う私たち幼児教育にかかわる大人の環境設定への情熱です。そして、これが子どもたちの生きる力のたくましさを育てていくことになるのだなと感じました。

 

 この食育の実践活動は幼児教育の大きな柱になっているように思われます。今回、審査会で話し合われましたことは、どの応募も最高の賞に値するものでした。今回は厚生労働大臣賞を設けることができました。また、選に入ることができなかった園もありますけれども、これは、活動がよくなかったのではなく、もっともっと深く情熱的におこなっている事例があったのだと受け止めていただいて、さらに実践を積み重ねていただければと思います。そして、次回には子どもたちの生き生きとした姿とともに再び応募いただきますことをお願い申し上げます。

 

情報をいただいたところによりますと、今、第2次食育推進基本計画の策定が進められていると伺っています。新しいこの計画のポイントには、周知から実践へ、ライフステージに応じた間断のない食育の推進、そして、家庭における共食を通じた食育の推進が挙げられております。これらの食育実践の活動には子どもたちが進んで活動したくなるような楽しい取り組みと、生活の営み、食の営みとしてのますます継続ある取り組みがのぞまれております。このコンテストが回を重ねるごとに、未来をになうたくましい子どもの子育て応援につなげていくことができれば幸いに思います。今日は、本当に受賞のみなさまおめでとうございました。また、たくさん応募くださいましたみなさま、会場にいらしてくださいましたみなさま、これからもどうぞご一緒にがんばっていきたいと思います。ありがとうございました。

 


 

入賞園の事例発表

厚生労働大臣賞 「つながる食育 ―園・家庭・地域―」
みんなでつながる食育の輪 ~継続の大切さ~

山口市立あじす保育園

 

 人事異動や5時間パートの導入などで、給食室4人のうち3人が新メンバーというなかで昨年度からスタートした食育。1年目にできた地域とのつながりをさらに広げ深め、子どもたちには、食材を作ってくれた人はだれなのか、命をいただく、食べるということはどういうことなのか、食を通していろいろなことが想像できるようになってほしい。いろいろな人のおかげで自分たちは食べることができるというように、いろいろなことがつながっていくようにと願って、「みんなでつながる食育の輪」をテーマに食育に取り組みました。

 


 

講評

八王子市立長房西保育園園長

島本一男 先生

 

 松波先生に会うのを楽しみにしていました。「こんな報告をする人はどんな人だろう?」と思っていたんです。そしたら、調理員さんだというじゃありませんか。しかもこの活動を2人の正規職員と5時間パートの方でやっておられる。小学生の活動もやっているし、地域の活動もやっているし、食育も園全体でやっているって、スーパーマンのような方なんだろうなと想像していました。

 きっと働いている姿は、もっともっとバイタリティーにあふれ、もっと楽しそうにやっているのだろうなと思います。今日はきっと緊張なさっていて十分に松波先生らしさが出ていないのかなと思うのですが、それでも言葉の端々に、やはりすごいなという感じが出ていたというのが私の最初の感想です。「とにかく、やってみよう」というのがすごいですよね。

 


 

優秀賞 「山間地域での食育 ~園児7人・小さな豊かさ~」
食と生活 ~様々な感動体験をとおして~

森町立三倉幼稚園

 

 四季折々の自然にめぐまれた山間地域の園児7人の幼稚園。季節ごとの食材も、自分たちの身近にあります。校庭内にはフキやのいちごが顔を出し、園外を歩くと地域の方が「みかんがなったで、とってきない」など、子どもたちに声をかけてくれます。
 本園は小学校と同一校舎なので、ずっと自校給食を味わってきました。しかし、平成21年度の9月からは給食の体制が変わり、校区の中学校で調理して配送をしてくることになりました。がっかりせず発想を転換し、中学校へ出向いて栄養士さんと話をしたり、中学生に囲まれて給食を食べたりしました。家庭と一緒に箸の正しい扱い方の指導にも取り組んでいます。

 


 

講評

財団法人こども未来財団・月刊誌『こどもの栄養』編集担当・管理栄養士

岡林一枝 先生

 

 私は東京では生まれたのですが、東京でも山深いところに小学校に上がるまでおりました。春になるとおたまじゃくしをすくったりしていたという体験がありますので、今、都会で暮らしていても、春になるとおたまじゃくしがカエルになることとか、そういったことがとっても懐かしいんですね。食べる物についても、山菜が大好きで、今は悲しいかなとりに行くことはできないので、八百屋さんやスーパーで見つけるとつい山菜を買って食べたりしているんですね。

 

 この活動を読ませていただいたときに、すごく懐かしい思いで読ませていただきました。おそらくこのなかにもそのような環境のなかで子どもたちと対面されている方がいらっしゃって、共感できることがあると思うのですけど、それはやはり先生方がちゃんとその自然環境のことを勉強するというか、ちゃんと知っていないと子どもたちと一緒にできませんよね。私も親やまわりの人たちが、「これはね、春になると何ができてね」というようなことを教えてもらったことが、記憶の奥にあって、ずっと忘れていたけれどこの歳になると、自然が大好きという感じになります。きっとこの子どもたちが大人になっておそらく途中都会に行ったりするかもしれませんが、やはり、人間が生きていくうちのいちばん大切なところ、物と一緒に暮らしているのではなくて、命あるものと一緒に暮らしているんだという体験をきっとこの活動のなかでいっぱい子どもたちに教えているんじゃないかなというところにたいへん感銘を受けました。

 


 

優秀賞「ゴマと塩」
シンプル イズ ベスト ―楽しく食べる子どもに―
~ごましおパワーで元気っ子!~

社会福祉法人 西大村福祉会 池田保育園

 

 白いご飯にごま塩かけて、黒ゴマを伝えようと、キャラクターのふりかけ全盛の時代に、職員がかけはじめると、つぎつぎに「お弁当にかけてある」「これ、いけるね」と子どもたちはおかわりの連続。ついになくなると、「どうしよう?」「園長先生が買ってくればいい」「う~ん、ごまと塩でつくる」「すぐなくなっちゃう」「じゃあ、みんなでお金を集めたら?」「いくら?」「10円でいい」「そうしよう」。ごま塩会員を募集することになりました。海の水をなめてみる、川の水をなめてみる、塩の結晶を顕微鏡で観察する……、ごま塩作りをきっかけに、ごまと塩についてのわくわくどきどき体験がはじまります。

 


 

講評

聖徳大学児童学部児童学科教授・臨床心理士

室田洋子 先生

 

 受賞おめでとうございました。私はこの池田保育園の発表を通して、ずっと8か月ないしは1年中毎日につながっているまわりにいる保育者たちの目というものを感じました。その目のなかには教えようとか、正そうとか、直そうとか、指導しようとか、こういうかかわりではなくて、子どもたちの言葉を拾う、子どもたち自身が発見する、子どもたち自身が見つけたことを大事にする、日常の保育活動を広げていこうとする、こういう一歩下がりながら、子どもたちの主体性を大事に広げていくというこの意思をもった集団の力を感じました。そういう意味でとても保育活動としての質の高さを感じました。

 


 

 


 

講演「かむ力は生きる力、しっかりかんでこころも体も元気な子」

講師:齋藤 滋(全国食育推進研究理事長・元神奈川歯科大学教授・元日本咀嚼学会理事長・歯学博
士)

 

 本日は「よく噛んで食べる」というあたりまえすぎて日ごろあまり意識されていな
行為が、私たちの全生涯にわたるこころと体の健康に大きな影響を与えていることを
お話します。
最新の研究では、肥満や生活習慣病のほか、記憶力ややさしく強いこころなど脳を介
して咀嚼と深い関係があることが解明されてきました。

 


 

※『第5回食育コンテスト活動事例集』には、これらの事例発表園を含む入賞園の応募レポートがそのままの形で掲載されています。

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